【新田恵利さん/タレント】 「学ぶこと」は自分の世界と選択肢を広げること
青天の霹靂だった実母の在宅介護
2014年のある日、突然母の介護が始まりました。もともと母は骨粗鬆症と診断され腰椎の圧迫骨折を何回も繰り返していたのですが、その年の秋に入院し、退院する日に初めて、母が立てない、歩けないことを知ったのです。トイレにも行けない、寝たきりになる、「じゃあ、介護なんだ」って。まさに青天の霹靂でした。
最初の1〜2年は、日々の生活をこなすので精一杯だった気がします。子育てと違って介護は先が見えないので、「いつまで続くのだろう」と暗い気持ちになったこともありました。自分の体調が悪い時にも見なければならないし、一方でシニアの体調というのは刻一刻と変わっていきます。食べたいというので素麺を作っても、30分後にはお腹が痛いからいらないと言われたり、お医者さんに連れて行きたくても、介護タクシーは基本的に予約制なのですぐに運んであげられなかったり。そんな1つ1つの出来事を本当に辛く感じていました。
でも3〜4年目になると「これは母のための介護ではなく、自分が後悔しないためにやる介護なんだ」と思えるようになりました。うちの母は素直な人なので、何かをしてあげると「ありがとう」「疲れているのに悪いね」って言ってくれるのも嬉しかったです。母の介護は2021年に卒業となりましたが、今振り返るとあっという間の6年半、少し変な言い方かもしれませんが、すごく幸せな時間だったと感じています。
介護職の方からの「大丈夫ですよ」の言葉に救われた
母が立てない、歩けないとわかった時、何をどうしたらよいのかわからず、とりあえず役所に相談に行きました。そこで渡されたのは地域包括支援センターの電話番号でした。家に戻って電話をかけて、また同じように説明を繰り返したところ、電話を受けてくれた支援センターの方が「大変でしたね、大丈夫ですよ」と言ってくれました。病院に入っていたのに立てなくなったということだけでパニックだった私にとって、「大丈夫ですよ」という言葉をかけてくれたこと、不安な気持ちに寄り添って共感してくださったことは、本当に救いになりました。
その後も母は、訪問リハビリテーションなどで色々な介護職の方のお世話になったのですが、皆さん普段から冗談を言って笑いあったりしていて、本当に明るいんです。もちろん、笑えない介護というのもありますが、全部が全部そうというわけではありません。外から見ているのと中に入ってみたのとではまるで違っていて、私の中での介護に対するイメージが変わりました。
そこからは私も、介護に関する講習などを受けるようになりました。認知症サポーター、おむつフィッターという民間の資格も取得しました。介護について学ぶことで、自分の親だけではなく、例えばですけれど、街でおじいちゃんおばあちゃんが一人で歩いている場合、散歩なのかな、それとも徘徊なのかなって。そうやって気にして見ることで、何かしら地域の役に立てるかもしれない…。そういう思いを抱くようにもなりました。
自分にあった学び方を見つけると、どんどん楽しくなってくる
自分が現役アイドルだった頃は、一人で外に出たり、人と一緒に習ったりすることはとても怖かったです。それが徐々に落ち着いてきて、今まで独学でやってきたことを習いに行けるんだと思った途端、学びに対してすごく興味が湧くようになりました。「これは楽しそう、面白そう」と思うとすぐにやってみるようになり、例えば自分が好きなハンドメイドの資格などはたくさん持っていたりします。
学びの経験でよかったことはたくさんあります。お友達もできますし、それに紐づいて得る知識というのも、普通に生活しているのとはまた違うものを引き寄せてくれるような気がしています。1つ学び直すと、それに付随して世界がどんどん広がっていくので、では今度はこっちに行ってみよう、とか。深く勉強して研究していく方もいれば、私のように浅く広く、色々なものを学ぶのが好きな人もいる。自分の性格にあった学び方を見つけると、さらに楽しくなっていくと思います。
そして、「向き・不向き」を見つけるというのも大事です。私の兄はずっと飲食の仕事をしていたのですが、一緒に母の介護をする兄をそばで見ていて、「この人は優しいし、体も大きくて安心感もあるので、介護の仕事に向いている」と思っていました。兄は「自分には無理、自分の親だからできたんだ」と最初は言っていたのですが、転職をしていざ介護の道に進むことになると、以前よりもずっと生き生き楽しそうに仕事をしているんです。周りの人の方がその人を客観的に見ていることもあるので、自分が何に向いているかを知りたい時は、人の意見に耳を傾けてみるのも一つの方法かもしれません。
これから介護を学ぶ人たちに伝えたいこと
私は学校嫌いでしたので(笑)、大学で教えるというお話をいただいた時は、そもそも大学に行ったこともない私が何を伝えられるのだろうとすごく悩みました。でも私の介護の体験が、これからの学生さんにとって役立つことがあるかもしれないと気がついた時に、自分が見て知って、感じてきたことを生の声で伝えてみようと思いました。
今の若い子たちは、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住んだ経験も少ないし、介護や死から縁遠い生活を送っている人が多いと思うのです。授業で介護について習っても、それは数字だったり、条例だったり、知識を増やしていく内容がメインになります。でも、介護のベースにあるのは、人と人とのコミュニケーションです。あの時私は、「大丈夫ですよ」という言葉に救われました。人の痛み、苦しみを感じ、一緒に笑って一緒に泣く。教科書には載っていない「感じる心」と「共感する姿勢」の大切さを伝えられたらいいなと思いながら、お話をするようにしています。
介護の仕事というのは、やはりとても大変だと思います。相手は人間ですから感情もありますし、うまくいかないことも多いです。でも、人に感謝される、やりがいのある仕事でもありますし、私個人としても介護職に従事されている方々をとても尊敬しています。あとは、100%完璧にやろうとは思わずに、ちょっとくらいいい加減でもいいんじゃないかなって(笑)。これから介護の仕事を目指す人には、いい加減、ではなく「良い加減」で長く続けていってほしいですね。